JR大阪駅北側には造園家吉村元男さんが設計された庭園があるそうです。吉村さんの作品は関西のものが多いようですが、万博記念公園の造園なども手掛けていらっしゃる大家です。

  さて、JR大阪駅の庭園は、複合施設「新梅田シティ」内にあるのですが、積水ハウスがここに巨大な緑化壁「希望の壁」(高さ9メートル、長さ78メートル)を設置する工事計画があります。これに対し、吉村さんが「庭園の統一されたデザインが損なわれ、著作権を侵害する」として、同社に工事中止を求める仮処分を6月19日、大阪地裁に申し立てました。
参考URL
安藤忠雄さん発案「希望の壁」巡り、著作権論争by YOMIURI ONLINE「庭園に緑化壁」は著作権侵害=造園家が設置差し止めを請求-大阪地裁 by 時事ドットコム

  ここでいう著作権は著作物の同一性保持権

  例えば、あなたが企業の金持ちオーナー社長で、知人の芸術家に彫像を依頼したとしましょう。なかなか立派な巨○の裸体像が完成し、あなたも気に入って予定通り、それを自社ビルの玄関ロビーに飾りました。

  ところが、社員からは非常に不評。顧客の一部からも「あれは何なんだ」とクレームが来ました。芸術家は健康的な裸体美だと言っているのですが…。あなたも展示はやめたくない。そこで、裸体像の身体の一部を赤い布で覆いました。それはそれでエロチックなチラリズムであなたは気に入ったのですが・・・

  しかし、これは彫像を作った芸術家の著作者人格権(同一性保持権)を侵害する可能性があります。布をつけただけで著作物である彫像を改造しているわけではありませんが、本来の表現を改変しているので、同一性保持権の侵害になリ得るのです(※1)。たとえ、あなたがお金を払って著作物の所有権を取得していても、同一性保持権自体は譲渡されません

  もちろん、彫像を作った芸術家が「別にかまわないよ」というのであれば問題はありません。ただ、これは金銭的な問題ではないだけに「勝手なことするな」と言われると厄介なことになります。

  今回の「希望の壁」騒動の場合、そもそも「庭園は著作物にあたるか」という論点もありますが、著作物にあたるとされた場合、緑化壁の設置は庭園設計者(吉村さん)の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するか、が争われることになります

  私は金持ち社長じゃないから関係ない と思われるかもしれませんが、この問題はすべての著作物に共通です。彫像でなくても、イラストや文章でも同じことが言えます。実際に争いになるケースはそれ程多くはないかもしれませんが、発注の際に、受注先が著作者人格権を主張しない という明文規定を契約書に設けておくことが無難ではあるでしょう(※2)。

※1:ベルヌ条約では、「著作者は、その財産的権利とは別個に・・・著作物の変更、切除その他の改変又は著作物に対するその他の侵害で自己の名誉又は声望を害するおそれのあるものに対して異議を申し立てる権利を保有する」(6条の2(1))としており、日本の著作権法でも「著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする」(20条第1項)としています。布で一部を覆う場合に、それが著作者人格権の侵害と言えるか争う余地はあるでしょうが、このケースのように、本質的特徴及び表現の意図が歪められている以上、物理的に切除されていなくても著作者人格権の侵害に当たる可能性は高いのではないかと思います。

※2:範囲を限定しない著作者人格権の不行使契約について無効とする見解もありますが、翻案権を含む著作権の譲渡を規定するとともに、著作者人格権の不行使条項を設けることが多く行われています。