技術革新は多いが、特許出願数は極めて少ない中小企業

  アベノミクスが議論されているが、経済成長の3大要因は、資本ストックの増大、労働力供給の増大及び技術進歩とされている。生産量をY,技術進歩をA,労働投入量をL,資本投入量をK,労働分配率をα,資本分配率をβ(=1-α)として、生産量Yをコブ=ダグラス型生産関数で表すと
Y=AKαLβ

  と表現できる。Aは、全要素生産性(TFP)或いは「ソロー残差」とも呼ばれる。上記の式を対数微分すると、
TFP成長率A=付加価値額増加率-労働分配率(α)×従業員数増加率-資本分配率(β)×有形固定資産増加率

  となる。

  中小企業白書2004年版によれば、上記の技術進歩率を示すTFP成長率(%)は、従業員数50~300人の中小企業の法が従業員数301人以上の大企業よりも、大きいことが示されている。即ち、技術革新において中小企業の方が活躍していることがわかるが、特許出願の数は極めて少ない

  2010年版中小企業白書によれば、中小企業は、企業数ベースで日本の全企業の99.7%を占めるが、特許庁「平成22年度知的財産活動調査結果」((業種別資本階級別集計表)によれば、2009年の実績で、資本金10億円未満の製造業による出願件数は6.9%であり、5000万円以下では1.7%となっている。また、個人からの出願は3%程度である。

  中小企業基本法の第5条には以下の4つの基本方針が規定されている
(イ)経営の革新及び創業の促進
   a.経営の革新の促進
   b.創業の促進
   c.創造的事業活動の促進

(ロ)経営基盤の強化

(ハ)経済的社会的環境の変化への適応性の円滑化

(ニ)資金供給の円滑化及び自己資本の充実

  そして、同法第2条第2項には、この法律において「経営の革新」とは、新商品の開発又は生産、新役務の開発又は提供、商品の新たな生産又は販売の方式の導入、役務の新たな提供の方式の導入、新たな経営管理方法の導入その他の新たな事業活動を行うことにより、その経営の相当程度の向上を図ることをいう、と規定されている。

  同条第3項には、この法律において「創造的な事業活動」とは、経営の革新又は創業の対象となる事業活動のうち、著しい新規性を有する技術又は著しく創造的な経営管理方法を活用したものをいう、と規定されている。中小企業基本法の第2条第2項の「新商品の開発又は生産」や同条第3項の「新規性を有する技術」とは特許発明に係る技術であろうが、上述したとおり、TFP成長率が大企業よりも大きいのにも関わらず、現実には中小企業からの特許出願は極めて少ない。

特許出願費用の援助を活用しよう

  アベノミクスでは、「財政出動」「金融緩和」「成長戦略」という「3本の矢」で、長期のデフレを脱却し、名目経済成長率3%を目指すとされているが、第3の矢の「成長戦略」では、研究開発やイノベーション創出促進等が重要であろう。

  特に、日本の全企業の99.7%を占める中小企業に眠っている暗黙知を形式知に変換し、特許出願数を増大させること、更には、特許の権利化後の特許技術の活用により中小企業を活性化することが重要な骨子となるであろう。

  資力に乏しい中小企業等は費用の面で特許出願をためらいがちであるが、元特許庁長官の荒井寿光先生(現東京中小企業投資育成株式会社社長)は、中小企業の経営者らに、15000円の印紙代のみで、直接、特許庁に手続して特許出願する方法を勧められている。

  日本弁理士会や都道府県等の中小企業支援センター等でも特許庁に出願する費用の支援をしているので、費用をかけないで出願する方法はいろいろとある。

  特許庁では、地域中小企業の戦略的な外国出願を促進するため、都道府県等中小企業支援センターに対する補助金交付を通じて、外国への事業展開等を計画している中小企業に対して外国出願にかかる費用の一部を補助している。

  青森県では、青森県知的財産支援センターと青森県発明協会の協力で「特許チャレンジ講座」を開催し、中小企業からの特許出願を支援している。いかに費用をかけないで特許出願できるか、という方向性を含めて、中小企業の経営者等の相談に乗るのが弁理士の使命であろう。

「亀の子たわし」特許に学ぶ中小企業の知財戦略

  西尾正左衛門は、「亀の子束子」の特許(特許第27983号)や商標(登録商標第53145号)を取得して、他社による模造品を排除しようとしたが、裁判にかかる費用が嵩むので上手くいかなったと述べている。中小企業にとって訴訟費用は重大な障害となるので、この面での支援策や法的な整備も課題である。

  コトラーは、製品には、(1)製品の核(本質)、(2)製品の形態(目に見える価値)、(3)製品の付随機能の「3つのレベル」があると説明している(P.コトラー 『マーケティング原理』 第9版 ダイヤモンド社)。

  3つのレベルの中心に位置する「製品の核」とは、消費者が求める便益や効用であり、製品コンセプトであるが、特許や実用新案が関連する。「製品の核」を外側から囲む中間層となる「製品の形態」は、品質水準、性能、パッケージング、包装、スタイル、デザインやブランド等であり、意匠や商標が関連する。3つのレベルの最外殻の「製品の付随機能」は、配達、アフターサービス、販売業者がつける付加価値等であり、ビジネスモデル特許等が関連するであろう。

  西尾正左衛門は訴訟をせず、パッケージを改めて、このパッケージが「亀の子束子だ」と分かるようにして、お客さんの意識に刷り込むブランド戦略を採用した。コトラーの3つのレベルを考慮した、特許、実用新案、意匠、商標を含む知財ミックスにより、100年以上たった今でも「亀の子束子」は売れている。

  この西尾正左衛門の採用した方向性こそ、中小企業の進むべき知的財産戦略の方向であり、アベノミクスの「成長戦略」を担うものとなろう。現在の法的環境では、費用のかさむ訴訟をしないで、如何に良い製品を市場に提供し、自社のブランド価値を高めるかが最も重要な知的財産戦略となろう。この場合でも「3つのレベル」の中核が特許になるはずである。