加護亜依さんの独立を巡って前所属事務所側が「加護亜依」の名前を既に商標登録していることを根拠に、この名前で活動した場合の「道義的責任」を追及する意向を示しているようです。

〈速報〉「加護亜依」商標登録済みで本名使えず!?(朝日ドットコム)
http://www.asahi.com/and_M/interest/entertainment/NIK201308210007.html

  こうした争いには様々な具体的事情や契約法上の側面がありますが、ここでは商標法に絞って考えてみましょう(※1)。

  まず、基本的なことは商標登録は「指定商品・役務」とセットだという点。「加護亜依」が商標登録されていても、「指定商品・役務」と同一・類似の範囲にしかその効力は及びません。

  上記登録商標(第5287159号)は、第41類の以下の内容をを指定役務としています。
演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,歌唱の上演,ダンスの演出又は上演,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育に関する情報の提供,英語教育に関する情報の提供,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する企画及び運営,英会話の教授,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育,高校卒業資格取得講座における知識の教授,通信教育による知識の教授

  従って、加護亜依さんが「加護亜依」グッズ、例えば、Tシャツや文房具、携帯ストラップを売ることには、商標法上の問題はありません。これらの商品は商標登録されている指定役務とは同一でも類似でもないからです。

  問題は、独立した加護亜依さんが「加護亜依」としてテレビ番組に出演したり、歌を歌ったりする場合です。これはアウトでしょうか?
 
  これについては2つのポイントがあります。

  第1は商標権の効力。実は商標権は指定商品・役務の範囲内でも効力に制限があります。商標法26条1項1号は
「自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標
  には商標権の効力が及ばないとしています。「加護亜依」は加護亜依さんにとって「自己の氏名」です(※2)。それを「普通に用いられる方法で表示する」限り、商標権は及ばないのです。
 
  第2はそもそも、アーティスト名・タレント名の表示が商標的使用となるのかという点。これは結構面倒な点なので細かくは立ち入りませんが、要するに、商品に名前が表示されていてもそれが「商標」として用いられていない場合があります。

  例えば、指定商品を「印刷物」とする登録商標「POS」に対し、第三者が「POS実践マニュアル」というタイトルの書籍を販売したケースで、後者は当該書籍の内容を示すものであり、出所表示機能を有しない態様で使用されているから商標権侵害に当たらないとした判例等があります。
 
  これらは加護さん側には有利なポイントです。ただ、芸能活動の場合、事務所を介して活動するわけで、新所属事務所が「加護亜依」という氏名を使ってテレビ番組に出演させたり、歌を歌わせたりするのは、26条1項1号には該当しないのではないかとも考えられます

  また、商標的使用か否かについては単純に否とも言えないでしょう。

  もっとも、加護さん側に立てば、上記2点の他にそもそもこの商標登録は無効だという主張があり得ます。このほか、どちら側からも相手に対し不正競争防止法に基づく主張もあり得るかもしれません。

  いずれにしても、タレントの氏名には財産的価値があり、単純に個人の名前という根拠であっさり解決するのは難しいと言えるかもしれません。

※1:タレントの氏名・商標の問題という点では「加勢大周」事件が有名ですが、あの事件では、地裁判決当時、商標は登録されていなかったようです。「高知東急」事件も有名ですが、こちらでは不正競争防止法が主な論点でした。

※2:前所属事務所側は商標登録時、加護さんは母親の旧姓池田を名乗っていたと言っているようです。