はじめて、この「鬼法」に寄稿をさせていただきます。ニューヨークで弁護士活動をさせていただいております、NY州弁護士の奥山英二と申します。多岐にわたる業務分野の経験から、いろいろなお話をさせていただきたく存じております。是非、ご感想を頂けましたら幸いです。

 第一回目となる今回は、アメリカに進出される会社さんがよく最初に陥るミスについてお話をしておきたいと思います。


絶対要るのか雇用契約書?

 結論から申し上げますと「契約社会のアメリカだから、従業員との間に雇用契約があるのが当たり前!」というのは思い込みです。

 むしろ実情は逆で、一部の上層部に属する社員などを除いて、ほとんどの従業員は不定期の雇用を原則とします。これを「At Will」の雇用関係と言います。「At Will」とは、「気の向くままに」とか「思いのままに」、という意味ですので、雇用に関して従業員も雇用主に縛られず、「随意、任意に」就業したり、職を辞することが出来るし、一方、雇用主も「随意に」解雇が出来るという考え方です。

労働協約と雇用契約

 しかし、「へー、随意契約で日本より解雇もし易いなんて」、雇用をするのも労働者を取り扱うのも「楽なのでは!」と考えるのは、早計です。

 確かに労働者の組合組織率も日本の18.2%(出典:OECD(2011), Economic Policy Reforms 2011: Going for Growth)に対してアメリカは11.9%、そして、労働協約に縛られる労働者の比率も日本の16.0%を下回る13.7%(出典:同上)とOECD加盟国の中でもひときわ低い(韓国の10.0%に次ぐ2位)のですが、労働機会均等法や様々な差別を禁止する法律、賃金の支払いに関する紛争、時間外労働の賃金などなど、様々な問題から訴訟にまで発展する事件は、年間数万件から10万件以上に達するので、労働協約や雇用契約がないことが、決してプラス面ばかりではないことは明らかです。

 労働者が労働組合(必ずしも企業別組合ではなく、地域別・職能別・年齢階層別など、様々な労働組合がアメリカにはあります)に加入すれば、労働協約を結びますし、労働者がレベルの高いエクゼクティブの場合は、雇用契約を結び、ボーナス・ストックオプションなどの賃金以外のインセンティブに関する取り決めを労働者側から求めてきます。では、その他の8割以上の一般労働者はどのように働き始めるのでしょうか?そして、何が労働ルールになるのでしょうか?


オファーレターとハンドブック

 「応募者がいいなぁ~!」と思った雇用主は、あなたをこういうポジション(職種・職能)で雇いたい、いくらの給料と、年間のお休みがこれくらい、健康保険はつけますが、会社の負担は7割まで、、、などという条件を示した「オファー」を手紙の形で示します。これにOKして入社して、渡されるハンドブック(Employee Handbook)に勤務のルールが示されます。これを受け取って、しっかり読みましたという確認の署名を会社が受け取って初めて正式に採用となります。このオファーレターにも、ハンドブックにも、別に取り決めがない場合、雇用関係は「At Will」であると明示する必要があります。

 「At Will」雇用関係であることを明示しない約束をベースに雇用関係をスタートすることは日本的な雇用慣行なのかもしれませんが、これを持ち込むことは危険です。良く観察されるミスの一つです。是非、ご注意ください。