
よく受ける相談に,「以前自社にいた役員・従業員が自分で会社を作って,自社の得意先に似たような商品を売り込んでいる。自社の従業員を引き抜いている。自社について有りもしないことを吹聴している。何とかできないか。」というものがあります。会社としては,得意先を奪われては堪らないという話です。
辞めた役員・従業員からすれば,既に会社を辞めているのだから会社に縛られる理由はない(会社に対して競業避止義務・善管注意義務・忠実義務を負っていない),自分が会社を作って商売するのは職業選択の自由だ,自分は以前いた会社と競争して勝っただけだ,という言い分になるでしょう。原則は,そのような主張が通るようです。
しかし,辞めた役員・従業員が,辞める前から得意先を奪う準備を進めていたり,従業員を引き抜く準備をしていたりしていた場合はどうでしょうか。また,辞めた役員が,会社内で企業秘密として厳重に管理されていた顧客情報・技術情報を利用したとしたらどうでしょうか。こうした場合にまで何もできないのでは堪りません。
そこで,こうした場合,辞めた役員・従業員の行為は不法行為や不正競争行為に当たるので,会社としては,辞めた役員・従業員に対し,顧客情報・技術情報の利用に対して差し止めを求めたり,損害賠償を求めたりすることが考えられます。
また,予防策として,役員規則・就業規則や秘密保持契約書・誓約書という形で役員・従業員を辞めた者の事業活動を制限しておくことも考えられます。規則・契約書・誓約書によって義務を負わせ,違反した場合に差し止めや損害賠償を求めるわけです。
ただし,そうした事業活動の制限も,合理的な範囲を超え,辞めた者の職業の選択の自由を不当に拘束し,生存を脅かすような場合,制限が無効となる可能性があるので注意が必要です。
役員規則・契約書・誓約書による制限が無効とならないように,制限される期間,制限される場所,制限される事業の範囲を合理的なものにし,そうした制限に見合った見返りを提供することも検討する必要があるということです。
辞めていく役員・従業員に対してきつく当たる例も多いようですが,締め付けも程々に。