取締役が辞任したい場合

役員


  たまにある相談ですが,「頼まれて会社の取締役になり登記までされているが,自分は会社の経営に全く関与しておらず,何をやっている会社かもわからないので辞任して登記簿からも自分の名前を消したい。」といった相談があります。

  取締役として登記されている者は,会社が誰かに損害を与えた場合,責任追及される可能性があります。そのため,頼まれて取締役となっている者が責任を負いたくないので辞任したいと思うようになるのはあり得る話です。

  こうした場合,どうしたらよいのでしょうか?

  取締役は株主総会で選任されるわけですが,選任されたから即取締役になるわけではありません。取締役は,会社から取締役になってくださいという申込みを受け,これを承諾してなるものです。そして,取締役と会社との関係は委任関係です。

  そこで,取締役は,会社(代表者である代表取締役)に対して,「辞任するからよろしく。登記から名前も消しといてね。」と言って辞任することになります。


代表取締役が辞任したい場合

  それでは,代表取締役にされた者が辞任したい場合はどうしたらいいでしょうか?

  他にも代表取締役がいるのであれば,その人に対して辞任する旨言って辞任となります。問題は,自分だけが代表取締役だった場合です。

  代表取締役は,取締役会で選ばれます。そこで,通常であれば,代表取締役としては,取締役会を招集し,新たな代表取締役を決めてもらい,その者に対して「辞任するからよろしく。登記から名前も消しといてね。」と言って辞任することになります。

  しかし,相談でよくあるのは,取締役会とか株主総会とかやったこともない小規模の会社です。仮に自分が代表取締役だったとしても,現実に取締役を招集して取締役会を開けるかどうか自体疑問です。

  こうした場合,代表取締役となっている者としては,自分以外の取締役全員に対して取締役を辞任する旨通知して辞任することになるかと思います。

  以上のような方法で取締役を辞任した場合でも,それだけで登記簿上の自分の名前が外されるわけではありません。

  会社の登記簿の内容を法務局に行って変えてもらえるのは会社だけです。したがって,辞任した取締役としては,登記簿から自分の名前を外してもらうため,会社に登記内容の変更を申請してもらう必要があります


会社が登記内容を変更してくれない場合は?

  しかし,会社(その代表者)が何だかんだ言って登記内容の変更を申請してくれないこともあります。この場合,辞任した取締役はどうしたらいいのでしょうか?

  この点,辞任した取締役としては,会社を相手に裁判を起こし,会社が登記変更をしなさいという内容の判決をもらうことが考えられます。辞任した取締役は,判決をもらえば,会社の代わりに自分で登記変更を申請することができます。

  ただし,注意点があります。

  法務局は,辞任した取締役が外れることによって取締役の定員数を充足しないようなことになる場合,登記変更の申請を受け付けません。そこで,辞任した取締役としては,この場合,登記簿から名前を外してもらえないということになります。

  この場合,辞任した取締役が,会社が行ったことについて責任を負わないようにする方法が問題となってきます。

  具体的な方法としては,会社の取引先に対して,自分が取締役を辞任して会社とは何の関係もないことを内容証明郵便などで通知しておくことが考えられます。

  以上のように取締役を辞任するにしても,何をやっているかわからない小さな会社の場合,手間がかかりそうです。経営に関与していないのであれば,会社の取引先がどこであるかもわからない場合がほとんどでしょう。トラブルを避けるためには,自分が経営に関与しないのであれば,始めから取締役にならないようにすることですね。