まずは、法務デューデリジェンスはどのように行うかについてお話しします。法務デューデリジェンスのやり方を一から詳しく説明すると一冊の参考書が出来上がってしまうので、極簡単な概要だけ説明することにします。

法務デューデリジェンスの大まかな手順

  まず手順としては、経営陣など会社の全体像を把握している者からその会社の事業全体像をヒアリングします。全体像を把握した上で、必要な書類を要求します。通常はドキュメントリストというものを対象会社に送付し、対象会社に書類の有無を確認してもらい、必要な書類を用意してもらいます。

  その後、通常は、書類のコピーを送付してもらったり、対象会社のオフィス内にデータルームを用意してもらいそこで書類を確認したりしますが、最近ではバーチャルデータルーム(ウェブ上で必要書類の開示を受ける場所)というものを使ったりもします。

  このように用意された書類を確認するとともに、書類だけでは分からない点は、担当者にQ&Aを送付して回答してもらったり、担当者に直接インタビューを行ったりして、法律関係及び事実関係を調査していくことになります。

  次に、上記のように提出された書類やインタビューを通じていったい何を調査するのか、つまり、デューデリジェンスの対象ですが、デューデリジェンスでは、対象となる会社について、概ね、株式・組織関係、許認可・コンプライアンス関係、事業関係、資産関係(知的財産を含む。)、負債関係、労務関係、紛争関係及び保険関係といった分野に分けて、検証していくことになります。

具体的に見るポイント

  具体的にどのような点を見るかというと、例えば、株式・組織関係の場合では、主に、株主名簿、株主総会議事録、取締役会議事録その他会社法上要求される書類を精査し、株式の有効性(譲渡の有効性)、会社法上の手続の遵守といったものを中心に見ていきます。

  ただ、稀に取締役会議事録や経営会議議事録等で、開示されていなかった対象会社の問題となる取引や違法行為等について議論されたものが議事録に記載されており、これを契機に対象会社の重要な問題が見つかるという場合もあります。

  事業関係及び負債関係では、主に取引先との間の契約や金融機関との間の借入に関する契約等を中心に精査していきます。

  この分野でも、稀に多額の違約金条項がついていた、業務委託料の名のもとによく分からない会社に資金を横流していた等の大きな問題が見つかることがありますが、中心はChange of control条項(合併、株式譲渡等の支配関係の移動があった場合に解除ができたり通知が要求されたりする条項)等のチェックになります。

  こういった条項をチェックし、M&Aの実行の際に、銀行や取引先から承諾をとったり、通知をしたりなど、会社法等の法律上必要な手続き以外に、必要な手続きをピックアップしていく作業を行います。

法務デューデリジェンスはどの程度行えばよいのか

  以上が法務デューデリジェンスの内容の簡単な説明でしたが、ではどの程度これを行えばよいのでしょうか。また費用はどれくらいかかるものなのでしょうか。こちらの方が企業の法務担当者の皆様が一番気になる点ではないでしょうか。

  大手企業の買収案件で買収金額が数十億円という場合には、弁護士を数十人投入し、上記に記載したデューデリジェンスの対象項目について企業のすべての書類等をチェックするということもあります。こういった案件は大手の法律事務所しか対応できませんし、弁護士報酬も数千万円にものぼります(私も、こういったデューデリジェンスを何度も経験しました。)。

  しかし、買収金額が数億から数千万円といった中小企業の買収案件で、こういったデューデリジェンスを行うのは合理的ではないでしょう。買収金額、リスク及び費用対効果等も考えて、数億程度の買収案件では、デューデリジェンスを2、3百万円程度で行いたいと考えられる企業も多いでしょう。

  こういった考えは決して不合理ではなく、むしろ合理的であると思います。M&Aも商取引ですので、買収金額等に見合った費用及び規模のデューデリジェンスを行うというのが、経営判断としても正しいと思います(逆に言えば、自社の規模に照らして軽微(取引金額数百~数千万円)なM&Aであれば、費用をかけてデューデリジェンスを行わないというもの経営判断として正しい場合もあると思います。)。

もっとも難しい対象の絞り方

  では、どのようにデューデリジェンスの対象を絞り、費用を抑えるのでしょうか。

  私は、この対象絞りが一番難しい問題で、専門家の経験とノウハウが必要な問題だと思います。一般論としてこのようにデューデリジェンスの対象を絞ればよい、例えば、1億円程度の買収金額で不動産業を営む会社であれば上記対象のうちこれだけを見ればよいということを私は言えないのです(もしそういったアドバイスをしている専門家がいたら、私は疑問に思います。)。

  デューデリジェンスの対象を絞るためには、対象会社の事業、資産・負債状況、契約状況等の詳細を把握した上で、適切に対象を決定する必要があると思います。この絞り込みに際しては、法律的知識というより、M&Aの経験及びノウハウが必要になります。

  例えば、取引先が数百あるが一つ一つの取引金額は少ない場合には、取引金額上位20社との間の契約のみチェックする、取引先が数百あるが自社の雛形契約を主に使用している場合には雛形のみチェックし、イレギュラーな取引の契約のみチェックする、古い会社であれば、議事録関係は2年分チェックする(従前M&Aを行っていれば、そのM&A後のもののみチェックする。)等、すべての項目を対象とするが、調査すべき書類の数を絞るという方法もあれば、端的に特に大きな問題が見つかりやすい、株式・組織関係、事業関係、負債関係、労務関係及び紛争関係のみを対象とするということも考えられます。

  逆に、対象会社が比較的規模の大きい会社ではあるが、事業形態がシンプルな場合には、デューデリジェンス対象をまったく絞る必要がない場合もあります。

  このように、デューデリジェンスの対象を決定するには、専門的な知識、経験及びノウハウが必要なのです。そこで、弁護士である私個人の立場からすれば、M&Aの相談の際に、これぐらいの金額でデューデリジェンスを行ってほしいと端的にお願いされたほうが、デューデリジェンスの対象ややり方を決める上で費用は非常に重要な情報ですし、その方が非常にやりやすいと思います