遺言書案の作成の件で、某企業の社長が事務所にご相談にお見えになりました。社長は数年前に奥様に先立たれ、既に成人されているお子さんたちとは住居を別にしています。
「財産と言えるほど、大したものは残っていないんですけど…」と言いながら、ご自身で書いたメモを差し出しました。

「わざわざありがとうございます。拝見しますね」

 ご自身名義の土地建物と、預貯金および会社の資産。事業を継ぐ予定のご子息と他のお子さんたちに、どのように分配するかを考えて書かれています。ところがメモの一番最後に、「タローに100万円」とあります。
「社長。タローって??」

「うちで飼っている子犬です。私が死んだらタローに餌代くらい残してやらんと可愛そうで…」

「お気持ちはごもっともですが、タローに残すって遺言に書くことは出来ないんですよ」

「やっぱりねえ…。タローが自分で餌を買いに行けるわけじゃよねえ。どうしたらいいですか?」

「お子さんの中で、あるいは親しい知り合いに、世話を頼めそうな人はいますか?」

「近くに住んでる三男坊が、ウチに来るたびにタローを可愛がってます」

「それでは、タローくんを引き取って世話をしてくれることを条件に、三男の方に100万円を相続させると記載することもできますよ」

「はあ。なるほどねえ…」

 昨今、ペットを家族同様に考える方が増えています。お一人で暮らしているご老人などが、自分にもしものことがあった場合、ペットをどうしようとお考えになるのは当然です。そこで、信頼できる方に飼育を頼むことを条件に、その方にお金を残すことを遺言に記載することが可能です。

 法律の上ではペットは「物」扱いですが、生き物ですので遺言を残すにも配慮が必要です。トラブルを避けるため、公正証書遺言にすることをお勧めします。また、実際に引き取ってくれるかどうか確認するために、遺言執行者を指定しておくことも必要でしょう。

 しかし、遺言執行者といえども、ずっとペットのその後を監視していることは不可能です。普段から親交があり、ペットを可愛がってくれる方に飼ってもらうことが何より大切です。ペットを飼うことが出来る環境の方であることも当然に必要ですね。さらに、遺言とは別に、ペットの身上書も準備し、餌の種類や既往歴などを記載して残しておくといいでしょう。