賃料の増減額請求権とは

 借地借家法は,経済事情等の変動があった場合に,賃貸人が賃借人に対し賃料の増額を求める権利があり,また,同じように賃借人が賃貸人に対し賃料の減額を求める権利があるとしています(同法第32条第1項)。こうした増減額請求は,通常は,口頭や(内容証明郵便ではない)文書で,任意の協議が始まるのが一般的です。この時点で,賃借人が増額に応じたり,賃貸人が減額に応じれば問題はありません。

賃貸人と賃借人間で合意が出来ない場合

 しかし,両者の考える差が大きく,任意の協議(話し合い)によっては,賃料の改定(増減額)が合意に至らない場合もあります。このような場合,まずは,内容証明郵便等により,値上げ(又は値下げ)をすべき金額とその開始時期を明示して,賃料の増額(減額)請求がなされます。内容証明郵便が用いられるのは,増額(減額)請求について,いつ・どのような内容の権利の行使があったのかが,調停や裁判の際の証拠となるためです。
 これをきっかけに,賃貸人・賃借人が話合いをし,話がまとまれば,新賃料の額を合意した書面を作成し,以後,賃借人が賃貸人に対し変更後の賃料を支払うことになります。

調停・裁判で賃料の増額(や減額)を決める手続について

 賃貸人・賃借人間の話合いがまとまらない場合,最終的には,裁判所にその判断を求めざるを得ません。賃料の増額(や減額)の請求事件は,いきなり裁判から始めることが出来ず,まずは「調停」手続から始めることとされています(調停前置主義・民事調停法24条の2)。調停で,双方の主張を聞き,譲歩により歩み寄れる余地がないか検討されることになります。調停委員には,不動産鑑定士なども選任されることがあり,相当な賃料額について専門的な立場からのアドバイスを得られる場合もあります。
 調停も成立しない場合,賃料増減額確認請求訴訟等で決着をつけることになりましょう。この場合,裁判所が判決を出し,それが確定することにより,正当な賃料が確定します。

調停や裁判で賃料額が確定されるまでの対応

 裁判で正当とされる額が確定するまでの間も,賃借人は,賃料を全く支払わないという対応をとることはできません。賃料滞納を継続してしまうと,賃貸借契約自体を解除されてしまいます。このとき,賃借人は,法務局に対する「供託」手続をとることで,賃料支払義務の債務不履行という事態を回避することになります。ただし,供託を行っていたとしても,裁判で賃料額が確定された場合には,裁判で決まる「正当な賃料」との不足額に,利息を付けて返還しなければならないことに注意が必要です(借地借家法32条2項)。

裁判が長引けば,利息支払義務も負うことに‥

 利息は「年1割」と高く法定されています。
 裁判で後で決定されることになる「正当な賃料額」からかけ離れた低額のまま供託を続けた場合,後に正当な賃料との不足額だけでなく,高い利息の支払義務を負い,不利になりかねません(オーナーからの増額の意思が表示されてから,裁判が確定するまで数年程度を要することも考えられます。)。双方の主張する額の差が大きい場合,早期に弁護士への相談を行われることが得策です。