損害賠償の範囲の制限に関する条項

 日常の様々な「契約書」の中には,損害賠償の範囲の制限に関する条項が設けられていることがあります。
 これは,民法上の取引ルールでは,民法第416条により,契約違反等の債務不履行があった場合,「損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。」「特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。」とされており,相当な因果関係がある範囲においては損害賠償義務を負うこととなっており,それ以上の具体的なルールがないことが背景にあります。
 さまざまな契約類型によって,事業者の責任を明確化し,また範囲を制限することによって,取引に生じがちな事故において,「相当な因果関係」のある範囲なら全ての責任を負いかねないというリスクを回避しているものです。

損害賠償の範囲の制限条項が使われる場面とは

 典型的な例でいいますと,荷物の運送に関する約款等が挙げられます。
 この場合,責任限度額が定められていることにより,荷物が毀損等したとしても,その毀損によって例えばビジネスに影響があった‥であるとか,事業自体に営業が生じた‥といった意味で「因果関係」がある全ての損害賠償義務を負うのではなく,一定の範囲や額に限定された形でしか損害賠償責任を負わないとしているものです。また,郵便法でも,上記同様の趣旨で,法律で,損害賠償の範囲が限定されております(同法第50条)。

商取引における「損害賠償の範囲」に関する条項の活用

 このような損害賠償の範囲に関する条項については,上記のような,事業者と消費者との間の「約款」による取引だけではなく,事業者と事業者との間の契約においても活用されています。
 具体的には,さまざまな業務委託契約において,業務を委託された業者側が不履行を行った場合においても「委託料」を基準として,それ以上の損害賠償を行わないとする契約内容等はしばしば見受けられるところです。
 実際の取引における力関係にももちろん左右されるところですが,業務委託契約を締結される場合,発注する側,受注する側,それぞれの立場において,「もし損害賠償請求を行う」ような状況になったら,どういったリスクがあるのかについての洗い出し作業は不可欠だと思われます。